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03 疾病理論

03A )なぜ心が病むのか?  複数要因論 ストレス脆弱性モデル 心の循環モデル

 多くの人が訪ねます。主治医に、自分に、友人に、神に。時に、グーグルに。

「なぜ?こうなってしまったのか」 原因はなにか? 原因がなにかわかれば、この状況に対処できるのではと考える

誰かはいう。それは人間関係だとよ。そしてそれは運命だと考える人もいる。意志が弱いからだというひともいれば、愛されていないからだという人もいる。

 親のせいにするひともいれば、社会が悪いと思う人もいる。診断名もかわり、色々言う人もいう。薬を飲めばいいといわれ、カウンセリングが必要だといわれる。

 なぜか?

それは、原因が複雑かつ難解だからです。正確にいえば「原因が複雑だった場合に脳がその原因を正しく認識するには限界がある」もしくは、「原因が単純な繰り返しによって起こった複雑系の場合、その結果の因果関係を認識できない」ということです。

 前者はわかりますよね。後者はちょっと難しいかもしれません。

 前者はここで述べていきます。

 後者は、別項で述べます。

 ここで救いがあるのは、原因が複数だった場合、全部を解決する必要は一切なくて、いくつか改善すればことたりるということです。それも改善しやすいものから改善すればいいということになります。

 

精神科の原因はなに?

 長いこと精神科の病気の原因は謎につつまれていました。

1)要因を細かく分けて生きましょう。

  1. 遺伝子 遺伝子の後期修飾
  2. 発生 発達 奇形
  3. 器質形成 ホルモンの状態
  4. 性格形成
  5. 過去の蓄積された記憶 処理済みの記憶
  6. 現在の体験
  7. ストレスコーピングスタイル
  8. 家族関係
  9. 友人関係
  10. 社会的関係 県や国レベル。 世界的レベル
  11. 形而上的関係(宗教やレイゾンデトール的)

 今までの歴史を振り返れば「単一の原因が精神病を作っているに違いない」と様々な科学的アプローチがされた時代が長かったです。精神分析、解剖、画像分析、DNA解析、双子研究、薬理の発達。単一原因では結局うまく説明出来なかった。ストレスが原因のストレスモデル、脆弱性が主体の脆弱性モデル、心理社会ストレスモデルといろいろの理論で説明が試みられました。

 それが最終的に”ストレス脆弱性モデル”という複数の要因論に行きつきました。

 ストレス脆弱性モデルというのは、簡単にいえば様々な要因が重なったあげくに、ストレスの強いイベントが起きたり、悪循環が重なり精神科の病気を発症するという考えです。

 生まれたあとの時系列にそって考えれば DNA→大脳の発生、成立→経験を通して性格の形成→更なる経験や学習を通した考え方の形成→心に影響を与え続けるライフイベント→現在の状況、ストレス状況
これらがすべて合わさって最終的に発症をするといった考え方です。

 コップに水が半分、入っているとしましょう。そこに石を入れていきます。最初はあふれないコップですが、何個か石をいれていくうちにあふれます。人は、最後にいれた石を水があふれた原因としがちなんです。でも、水があふれないようにするには、取り除く石はどの石でも構わない。

 子供にもわかる例えにすると、”ドラゴンボールの悟空の息子悟飯をどうやったらスーパーサイヤ人にさせないか”みたいなものです。わかりやすいと思います。あの話ではみごとに失敗してますけど。
また、多くの要因はダイナミックに連続しています。多くの状況は枝葉のようにわかれているだけで根っこのほうはいっしょなのです。特にとなりあったものは根っこがつながっていますよね。

 (余談ですが、これは学校の勉強も同じで数学を突き詰めると歴史がひょっこり現れるし、理科を突き詰めると国語がひょっこりあらわれるので知性や、学業も同じだと思います。)

 詳しくは各論で説明していったほうが具体的でわかりやすいと思います。
 

 これは心の機能は単一の理由では、それからバランスを取り持つ働きがあるからです。

 また、双子研究で明らかになった部分でもあります。一卵性双生児であれば、DNAは同じなので発症の要因や割合を研究することが出来ます。遺伝子が原因であれば、双子は同じような病気になることになりますが、そうではないです。

 また、DNA解析も近年は盛んですが、複数遺伝子が見つかっており、単一遺伝子ではほぼみつからず、その組み合わせでまた確率が変わるなど想像以上に複雑な機構を示唆しています。

チチが悟飯をスーパーサイヤ人にしないためにはどうすればいいか?

 結論から言えば、
 これを一つ一つ説明していきましょう。

 真面目に取り扱った本はいっぱいあるのでここでは国民的ヒーローであるの悟空が何故スーパーサイヤ人になれたのかを例にとって説明しましょう。
スーパーサイヤ人になった時の悟空の心の構成はざっくり下記の通りです。DNA サイヤ人の血 月をみると 生まれ育ち  山奥で武術家のお爺さんに育てられた。
性格 前向きでざっくんばらん。あけすけで率直。
考え方 もっと強いやつと戦いてえ
ライフイベント お爺さんを殺してしまった。旅に出ないといけない。ドラゴンボールを探すので強いやつと戦う クリリンが死ぬ。
お気づきの方はいると思うのですがこれらのどれをとってもスーパーサイヤ人になる確率は低くなるはずです。
 この複数の要因が合わさって発症するという仮説ですが、それに従って、私の治療のプランは計画を立てていきます。

 病気の治療というのは、悟空の妻チチがいかにして息子の悟飯をスーパーサイヤ人にしないか、戦うのをやめさせるのか? という命題に似ています。

初診で聞きたい情報とストレス脆弱性モデル

 ストレス脆弱性モデルであると仮定すれば、初診で聞かなければいけない情報も逆算できます。実際はこれに治療に必要な情報を足します。ネガティブなものにポジティブな情報を足したものです。

 通ってらっしゃるかたはわかると思うのですが、

 家族や親族の病歴→DNA情報

 生まれ生い立ち→器質や性格のチェック

 学歴、仕事歴→社会的能力や知的能力 ストレス因

 結婚歴→ジェンダーとしての変化

  発症してからは

オンセット(発病時の流れ)―急性?慢性?間欠性

経過→悪化傾向、改善傾向

現在の様子

循環モデルから考える悪循環、好循環

 複数要因があり、ここに留めをさして病気を完成させる要因が、”悪循環”です。

 本当にこれが、これこそが、病気が病気たる所以でもあると思うからです。逆に言えばここをどうにかすることが、医者の腕のみせどころでもあるんです。
 一言で言えば、悪循環は症状が症状を悪化させるという状態です。
 うつの症状で不眠と食欲不振が代表格ですね。
 うつ病になると、眠れなくなります。眠れなくなると脳の疲労がたまり、考える力がなくなります。するとうつの症状が悪化する。
 これは様々な病気に当てはまります。
 自家感作性皮膚炎というものをご存じですか?
 例えば虫に刺される→その発疹を掻く→その雑菌がついた指で他の場所を触ったり掻く→発疹が広がる→以下繰り返し。

 例えば統合失調症や認知症であると被害妄想がこれにあたります。
被害妄想→人を遠ざけたり引きこもる→生活の破綻→ストレスの増大→被害妄想の悪化。
 アルコール依存症でもあります。
 飲酒欲求がない→試しに一杯→気持ちが大きくなる→さらに一杯→気持ちがさらに大きくなる。→もっと飲む→考えることができなくなる。
不安障害でもあります。
人と会うのが不安。→人と会わない→さらに不安になる。
 精神科の障害で外来や入院にこられるかたの殆どが大なり小なりこの悪循環があります。この悪循環の如何に正確にすみやかに止めるかというのが、心の火消しとしての精神科の腕のみせどころだと思います。

なぜ、くらべることは心の健康に悪いのか?~無人島に一人で生まれたら人は幸福も不幸も感じない。

 

想像すればわかるのですが、一人頭のGDP(国が豊かどうかの指標の一つ。)と平均寿命はある程度相関します。 参考 https://honkawa2.sakura.ne.jp/1620.html

ところが、うつ病と躁病は相関しません。
 https://honkawa2.sakura.ne.jp/1620.html

私が最初にみたのは20年みた研究の統計でソースがみつからなかったので類似の研究から引っ張りますが
経済格差を調べる”ジニ係数”と、自殺者数は強い相関を示します。
試しに”ジニ係数””自殺”で検索してみてください。
 寿命はある程度までは相関しますが、一定水準になると相関がゆるくなります。しかし、このジニ係数で先進国だけをみると、健康や寿命と相関がみられます。
 結論からいうと”経済格差は心と密接に関わりがあります”

私のお気に入りの質問で”生まれて来て良かったか”をよく患者さんに「生まれて来て良かったですか?」という質問をします。
お気に入りというのは、ポジティブな意味でです。
いろんな答えがあります。生まれて来て良かったと即答する人が多いですね。(そういうひとを選んで聞いているというのもあります)
この質問の興味深いところはこの答えが”精神科的な重症度と相関しない”ってことです。 精神の重症度は本当に幅広くて、ぱっとみはわからない方から、一生の殆どを精神科に入院して過ごす人も居ます。 閉鎖の慢性期病棟に入っている人に質問をすると多くの人がよかったと即答するんですよね。 何年も病院にいて明らかに重傷の患者さんが「生まれてきてよかった」と強く肯く姿は私にいろんなことを教えてくれます。個人的に歯癒やしを感じます。まあ、その後で「お小遣いあげて」「タバコ増やして」って続いたりしているんですが。
 逆に生まれてこない方がよかったというのは比較的軽傷の人が多い印象です。「はたらけなくて」「家事もできなくて」と本当に真剣に悩んでいる。 この苦しみの源泉はおそらく”比べること”から来ています。じゃあなんと比べているのか?
かつての自分。仲が良かった友達。配偶者、普通という幻想の自分。それらとくらべて「失った」「落ちた」「元に戻らないといけない」「頑張りが足りない」という強い思いが自分の生を呪うという強い思いに変わって閉まっているのだと思います。
 ”不幸は比べる対象がいることで初めて不幸だと感じる”のではないかと思います。

  • この記事を書いた人

モジャクマシャギー

 アラフォーの精神科勤務医です。自分の外来や診療が円滑になり、利用者さんの治療がスムーズになることを目標にブログを書き始めました。   ですが、いろんな方にもみてもらってやくにたてたら嬉しいです。  病棟業務を中心に児童から認知症、最近はインターネットゲーム依存まで幅広くみています

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