02 脳の機能について

三つのやる気スイッチ、ネガティブエンジン、ポジティブエンジン、楽したいエンジン

 人が自分を変えようと思うときに、必要なのは動機付けです。

 動機付けというのは、例えばお金が欲しい→働きたい→仕事を探す みたいな感じで、○○ほしいといったものだけでなく、貧乏になりたくない→仕事を探すみたいな感じともっと楽をしたい→お金があれば→以下同じみたいなものもあります。

 それらは人間を動かエンジンのようなもので、端的にいうなら、やる気スイッチと呼ばれるものです。

 もう一つ、ラブエンジンというものもありますが、それは治療で使うことはなかなかありません。母子関係では介入しますが割愛します。

 別の言い方をすると人は、快楽、不安、愛と平和のために動き、かわり、頑張れるということです。

 それぞれ、治療をするにあたっては非常に大事なものでこれがないと、人は動かないのでこの確認は、精神療法ではほぼ必須になります。

 私の外来に通っている方はよく聞かれると思います

「どうしたい、どうするか」「どうなりたくないか」はこの二つの動機付けを常に確認する作業となります。治療がすすまない、始まらない、導入ができないときはだいたいここが間違っていたり問題がある場合が多いです。

 ところが、場合によってはこの三つのエンジンが不具合を起こしているそのこと自体が問題であったりします。

 インターネットゲーム依存、アルコール等の嗜癖、虐待ケース、不安障害などですと、治療のスタートのここに問題がある場合がある場合があります。とはいっても絶望するにはまだ早いです。つまりはこの三つのエンジンを再度組み立てなおしたり、再構築したり、いちから作ることで劇的によくなることもみこめるのです。そして、そもそもこの三つがすこしでもないなら、寝たきり状態になるかしんでしまうかするので、意識に登らないだけで、確実に三つのエンジンのどれかはあるものです。そのコアとなる仕組みに気がつき、習慣を通じてそれを前頭葉機能に定着させ、そして人生を変える一歩にかえることは決して不可能なことではありません。

 似たような話を書いている本も多いとは思いますが、ここでは私なりにここに記載したいと思います。

ポジティブエンジン

 

ポジティブエンジンは、基本的に○○したい。で構成されています。ドーパミンを軸とした報酬系の機能をもとにしたものです。

 ポジティブエンジンの理解のポイントはいくつかあります。まず下記に述べます。

  1. 短期の報酬系と長期報酬系の違い。
  2. すべきとしたいの違い。
  3. 褒めて伸ばす、けなして伸ばす。
  4. すべきをしたいにかえる。
  5. 意識にのぼらない快楽

それぞれ書いていきましょう。

短期の報酬系と長期の報酬系の違い。

 ゲームや嗜癖行為(アルコール、薬物、リストカット、ギャンブル、過食、簡単な性行為)はこれは短期で脳内の報酬が見込めるものです。報酬にアクセスもよく簡単です。

 それにくらべて、勉強、仕事、スポーツ、登山などの健康的な娯楽、芸術、安定した愛情などの快楽は総じてアクセスがわるく、報酬も確実でなく、また得られるものも遅い傾向があります。しかも、これの回路が脳に形成されるのも幸運が必要で、一回の強烈な快感かもしくは、コンスタントに得られる快感を実際にえられないとそもそも報酬系が成立しません。逆に、一度成立してしまえばあとはかってに好循環を起こすものが多く非常に健康的で建設的です。

 しかし、勉強なら成績が上がる、出来なかった問題ができるようになる。仕事なら成果を出す。スポーツなら30分以上の丁度良い負荷の運動に加え、ある程度勝ったり負けたりする、登山もやり始めの筋肉痛に耐える体を山に慣らすことが必要など、芸術も習熟までに時間がかかるなどイニシャルコストとハードルがそれぞれ高くそれなりの才能が必要でこの回路がない人もいます。

 エビデンスがあるわけではないですが、嗜癖の問題を抱えている人はこの長期報酬系が弱い気がします。治療ではこの長期の報酬系をいかに作るかを一つの課題にしています。

 ”すべき”と”したい”の違い

 いわゆる”べき”思考というものがあります。○○すべき、○○しないといけないといった考え方でよくあるのは仕事をしないといけない。人の輪をみだしてはいけない。将来のために激しい練習をしないといけない。大学にいかないといけない。夫(妻)のいうことを聞かないといけない。といったものが典型的です

 価値観はさまざまななので、基本的にまったく問題がないのですが、偏っている場合は別です。

まず、大原則として人と動物は”快楽を伴う行為を繰り返す”ということがあります。簡単に考えて、ゲームしたいと、勉強すべきはどっちが強いでしょうか? 食欲と仕事しないといけない気持ちはどっちが勝つでしょうか?

 それが一点。

 もう一つは、すべき行為のいくつかはリラックスをもたらしません。簡単にいうと、体が臨戦態勢になり交感神経優位の状態になり内臓に強い負荷がかかってしまいます。うつ病になったかで極端な方では”べき”行為で一日の殆どをうめる人がいます。べき行為をくりかえした結果、嗜癖に走る人も多いです。

 これをバランス良くスケジューリングすることが最初の1歩なんですが、「でも先生、○○しないと死んでしまう」といいながら、くりかえしアルコールを繰り返し飲むといった矛盾をたくさんみてきました。はたからみたら簡単な話になんですが、当事者からするとみえない。

 短期報酬系を打ち消すには他の報酬系をバイパスしたり、上書きするか、報酬系をよわめるしか根本的な解決にはなりません。

 私個人の価値観ですと本当にすべき行為はそんなに多くなく

  • 水は適正に飲むべき。
  • 死のうとしない。
  • 栄養はとる。
  • 取り返しのつかない迷惑行為はしない。

ざっと、このくらいですかね。

褒めて伸ばす、けなして伸ばす。

 大前提として、けなして伸ばすやりかただけだと、報酬系は伸びることがないです。けなしたあとにできて喜びがあってこそ報酬系は成立します。ポジティブエンジン自体は快楽原則にしたがうので、けなしても意味がないのは自明の理ですが、なぜかここがわからない方も多いです。しかし、ネガティブエンジンは別なので、けなして伸ばすということを否定するわけではないです。要はバランスで、ポジティブエンジンが弱い人にそのエンジンを作るためには、褒めるしかないのです。つまりなにがいいたいかというと本来は”その人の人生の目標や価値観や特性にあわせて、褒めた方がいいのか、けなしたらいいのか決まる”といった原則が浮かび上がります。しかし、教育の現場では大勢を共通のメソッドでのばしていくのでわかりやすい教義や指針が求められるので「人は褒めてこそ伸びる」みたいな単純化された話になってしまいます。その逆もありで、「部下はけなして伸ばした方がいい」みたいに単純化されます。

 低コストで大量に人を社会化させるという一点において、教育の意義や必要性については議論するつもりはないのですし、どうように、ビジネスや軍務においては、教育にコストを払うのに限界があるので仕方ないし否定はしないですし、それに反抗して盗んだバイクで走り出すようなことも考えないですが、基本そこでうまくいかなかった子どもや大人が精神科の外来にくると考えれば、やはり個別対応になります。

 学校の講演で話した機会があるときに個別対応の重要性をといてもやはい「それだとどうしても統一性がとれないという」質問をうけますがまあ、人間の脳の限界に起因する問題なので仕方ないなと思います。

 この辺の矛盾は専門的な職業にはつきもので、「本来複雑なものを単純化させる」「単純なメソッドで複雑なものに対処する」というのはずれは当然出てきますし専門家が素人に「複雑なものを複雑なまま伝える」ことはほぼ不可能ですし、こと専門家であっても「単純に考える専門家のほうが人気がでる」というバイアスは強烈で、正確性を重んじてた発信者や専門家が段々と不正確でキャッチーなことしか言わなくなるのをネットでみていると難しいものだなと思います。しかし、楽になるための一つのゴールは「複雑な物事を複雑なまま受け入れみて感じて考える」というものなのでこの矛盾や危険性に気がつくのが治療の第一歩でもあります。

 要するにいいたいのは「ほめればいい」「けなせばいい」といったものでなく大事なのは「対象の人をどう変えていくのか」「どうかわっていきたいのか」といった至極あたりまえのことで、固定観念に人は振り回されたときそれが事故のもとになるので気をつけたほうがいいと思います。

 この固定観念の話でひとつ思うことがあります。山で遭難したときに山の教科書では基本的に登り返すんです。これは崖にいかないのと、山道をみつけやすいからです。ところが、イギリスの落下傘部隊出身の人がサバイバルするのをみていると、川をくだっているんですね。そう教えられているみたいで。敵地に不時着想定だと、たしかに、川筋をおりていったほうが敵に見つかりにくいし、ああ状況によるんだなと思いました。また、ロープ装備がある程度あるなら、自分も川を下っていったほうがはやい確実かなとも考える。ところがそこらへんを素人に教えても理解出来ないし伝わらないしなんなら危険だ。すると「遭難時は上」といった風に単純化せざるを得ないと思います。

 なので私も「基本は褒めて伸ばす。そっちのほうがリスクが小さい」ということが多いですが、本来ならこんな長文でいいたいところです。

 すべきをしたいにかえる

 ”すべき”と”したい”の本質的な違いは、ドーパミン体系で処理されるか、それ以外で処理されるかの違いになります。いろんな人を観察していると、あなたがすべきと考えて行動していることを、嬉々としてやっている人がいることに気がつくはずです。それらの人の違いとはなんでしょう。仕事や家事を嬉々としてやる人と、そうでない人。ゲームを楽しい人と楽しくない人。他人と話すのが楽しい人、楽しくない人。これらは究極の所、回路の違いであり、回路の違いはDNAと経験の違いであると言えます。と考えると次にすべきは、

  1.  自分の脳の特性をしり、変えられそうな所と、変えられない所を知る。
  2.  すべきをことが喜べる経験を積む。

 という順番になります。1番は他の記事でも書いているので割愛するとしてここでは2を掘り下げましょう。

2は基本的に褒められて伸ばすということが基本的な戦略になります。一番てっとりばやいです。簡単な報酬をあげるのもいいです。トークンコミュニケーションと呼ばれるテクニックをつかうのもいいと思います。親御さんは子どもを褒め、パートナーには褒めてもらうことをお願いし、居ない人は鏡で自分を褒める。褒められただけで喜ばない人もいますが、一ヶ月も続けると変わる人も大勢いるので継続することが必要です。

 次にTo doを細かく刻んで再構築するテクニックがあります。 例えば勉強でも好きな教科を中心にやらせて嫌いな勉強をまぜるといった具合です。家事でも嫌いな家事と好きな家事があるとおもうので好きな家事、快感を感じる家事を軸に他の家事をやってしまう習慣を構築するといった具合です。ハンバーグにピーマンをまぜる感じです。

 長期の報酬系の構築は二つのパターンがあります。

  1. 小さな快感を伴う行動を積み重ねた結果、大きな快感を伴う結果を得た。
  2. 苦労のあとで、たまたま大きな快感を伴う結果を得た。

1に関しては意志でコントロール可能です。

 2に関しては殆ど運任せですが、ことスポーツにおいてはわりとやり方が確立している感じがします。勉学や仕事においても教育の面では重要ですが、外来にくるかたはそのやり方で挫折したことを考えるとメンタルヘルスの観点からすると推奨は安易にできないかなとも思いますが、平均値より抜きん出たエリートを育てるにはさけて通れないメソッドだと思います。

 しかし、後述のネガティブエンジンからのポジティブエンジンの構築では可能なやり方です。

意識に登らない快楽

「最近の楽しみはなんですか?」「体が喜ぶことはなんでしょう」という質問をします。具合がわるい方はからよく「なにも楽しみがない」「わからない」という返事が返ってきます。

「子どものころ楽しかったことはなんですか?」という質問します。こちらも同様で具合がわるいと答えが返ってきません。

 ところが報酬系がまったく機能がないとすれば、自立した行動は無理なので機能自体はいくらかはあるはずです。なぜ、そのようになるのか。

 これは何らかの理由でその喜びが意識に登ってこなくなるのでしょう。理由は二つで、信号が小さいか、信号がうえまであがってこないかだと思います。

 この対処法はシンプルで、何らかの行動をやってみて体の変化を感じ取るということになります。

 定番は二つです。

 過去の回路から引っ張ってくるやりかた。一番調子が良かった時期にやっていたことをもう一度やる。子どものころに好きだったことをやってもらう。

 新しく回路を作るやり方。やりたかったけどやらなかったことをやってもらう。それもないなら、本屋か図書館に行きぐるりと回ってもらって一冊を選び、それにそったなにか新しいことを実際にやってもらうということになります。

 それもなかったら、一般的に体が喜ぶこと ストレッチ、軽い運動、栄養のバランスが良い食事、片付けなどの家事、散歩、好きなものを写真にとる(絵に描く)などをやっている時の自身の観察にします。

 それも無かったら、呼吸や瞑想法、筋弛緩法、自立訓練法を指示します。呼吸は腹式呼吸などを伝えますが、呼吸をちょうどよくするような指示などをしたり、立位、座位での瞑想、などです。

 呼吸などは最たる意識に登らない快楽で、基本的にしないと苦しいし、空気は美味しいはずですが、意識には登らないです。

 それをいきこらえなどで感じてもらいます。

 息しているだけで偉いんですよ。みなさん。

 呼吸法は本当に奥深くて、内臓でありながら随意筋の支配を受けている器官で、心臓や胃、腎臓と違い意識的にかえられる部分です。ここをきわめるだけで、自律神経のバイオフィードバック法、マインドフルネスなど心を操作できます。極端なことをいえば、息こらえを1分やってもらっているとき、人は死にたいとは考えなくなります。いや本当に空気があってよかったですよ。空気に感謝です。

ネガティブエンジン

 「恐怖心はボクシングを学ぶうえで最大の障害だ。しかし、恐怖心は一番の友達でもある。恐怖心は火のようなものだ。管理する方法を学べば、自分のために利用することができる」カス・ダマト

 カス・ダマトは名選手マイクタイソンなどを育てた名トレーナーで数々の名言を残しています。これを同じ事を辰吉丈一郎選手も雑誌のインタビューで語っていた記憶があり(検索してもみあたりませんでした)中学生のころその言葉に感動してボクシングの試合をみることが好きになった記憶があります。

 私は”不安は才能”だと思っています。スポーツ選手のインタビューを聞いていると不安が強いことが練習の量と質に関わっており、その不安をポジティブな行動に転化することで成績を残します。

 例えば、不安は恐怖は回避と準備に使われます。

 https://calmhorizon.net/%e4%b8%8d%e5%ae%89%e2%91%a0%e4%b8%8d%e5%ae%89%e3%81%a8%e3%81%af%e4%bd%95%e3%81%8b%e7%9f%a5%e3%82%8b/

 合わせて不安のコントロールについての項目を読んでもらうとわかりやすいかもしれません。

 不安を知り、不安をコントロールすることでネガティブエンジンの構築の一つです。ここでいうネガティブエンジンとは「恐怖や不安などのネガティブな感情を行動の動機付けに使う」というものです。ポジティブエンジンが車輪や自転車みたいなものだとすれば、ネガティブエンジンは内燃機関のような爆発力があります。その分リスキーな一面もあります。不安、恐怖、自尊心の低さ、自信のなさ、嫉み、嫉み、恨み、罪悪感、怒り、悲しみ、後悔等々の感情をもとにポジティブな結果につなげていきます。

 不安に関しては詳しくは上記のリンクをみてもらったほうがいいと思うのですが、構築のポイントは下記の通りです。

  1. ネガティブな感情の特性について知る。パターンや、対象し、自覚し、他者へ表出したり、文章などで外在化する。
  2. 自律神経について学び、コントロールする術を知る。
  3. 長期的目標、中間目標、短期目標などの方向性を明確にする。
  4. ネガティブな感情の対象の視点を広げ「短期的損失」より「長期的損失」こそが恐れるべきものだと知る。俯瞰的にみるクセをつける。
  5. ”回避”でなく”準備”に行動指針を選ぶ。他者の攻撃でなく自己改革にエネルギーを向ける。
  6. 感情に沿った行動にともうなう結果をリスクヘッジする。

下記に、一つずつ解説していきます。

 

 ネガティブな感情の特性について知る。パターンや、対象し、自覚し、他者へ表出したり、文章などで外在化する。

 感情を利用するときの基本ですが、まずはパターンを知らないといけません。起承転結で考えましょう。

  1. 起 きっかけ、トリガー、おきやすい前提条件(空腹睡眠不足)
  2. 承 前兆、サイン
  3. 転 強さ、持続時間、感情の大きさ、自律神経の症状、表情、とりやすい行動。
  4. 結 どのように収束するか。収束しやすい事象、長引きやすい条件。

こういった情報を得るための方法はそう多くなくて

・日記を書いて人に見せる。

それらが、一番コストが良いです。人に話まくるのも良いです。知的に高いかたなら日記に書くだけで自己分析できることでしょう。または、他の一般的なパターンと比べてどうかというのも参考になります。映画、小説など同じようなやっかいな感情を描いているものは沢山あるので、それをみて学習するのも良いでしょう。

同じように似たような問題をもつ人の観察も役に立ちます。

 この部分は非常に簡単ですが重要です。ここがエンジンの基盤の8割になります。ここをしっかり見つめていきましょう。

自律神経について学び、コントロールする術を知る

 特に怒りと不安で問題になります。感情は生物的には古い機能であるので、必ず身体的反応を伴います。

 動悸、視野狭窄、呼吸促迫、高血圧、食欲不振などなど様々な症状が現れます。一つは感情のサインでもあります。交感神経が優位になっていることで自分で怒っているんだ不安になるんだと気がつくことも出来ます。もう一つは、逃避でなく闘争として使うと仕事のパフォーマンスをあげることができます。しかし、これは使いすぎると体が休息をとることができないので、意図的に交感神経切り替える術がある程度あればいいです。

 やり方には大きくわけて2種類で、交感神経をオンにする方法と、副交感神経をオンにする方法です。

交感神経をオンにする

 運動を習慣にするのが一番てっとりばやい方法です。散歩、軽いジョギング、筋トレ、強めのストレッチなどが有ります。心肺の疾患や血管の問題(高血圧や血栓)がなければ、サウナ等も感覚が掴みやすいです。趣味としてはバランス系のスポーツや登山があります。スポーツはとにかく無数にあるので緊張感があり、身体を使うものであればいいと思います。

副交感神経をオンにする

 運動をやめたときにリラックスのスイッチが入るので、前者と被ります。意図的にやるならリラクゼーション、ヨガ、自律神経訓練法になります。ぬるめの入浴、足浴、美しい風景をみる、音楽、絵画、秘密基地作り、睡眠のコントロール、食事のコントロール、人との会話様々なものがスイッチに実はなっています。

 問題はそれを意図的にできるかということです。強い感情は交感神経のスイッチをいれ、闘争OR逃避状態にします。それを解除するには工夫と経験が必要です。しかし、諦めなければ必ず出来ます。

 理論上の話でエビデンスがあるわけではないですが、私としては交感神経も、副交感神経も入っていない状態があるんじゃないかもしくは丁度二つが拮抗している状態があるのではないかと思います。肉体は精神を地上に縛る鎖と重しのようですが、その瞬間、浮遊するような自由を感じることもできるのではと思っていますが、雑念の多い私にはなかなか難しい境地です。

長期的目標、中間目標、短期目標などの方向性を明確にする。

 自転車も車も”前に進む”という目的があってこそ、道具として成立します。焚き火も目的がなければただの危険な事象です。このブログでは再三言っていますが、人が変化するために目的を持つというのはとても大事なことです。初志貫徹が必ず必要なわけではありません。指針がなければ人は修正ができないからです。この目標は本当にとりあえずでよく。「生きる」とか「笑う」とか「愛する」とかでいいです。(※ただ、愛されたいという目標は雨乞いと同じぐらい不確定な目標でよくそれでドツボに入ってしまう人もいるので注意が必要です)

 ポジティブエンジンと違って、ネガティブエンジンは取り扱いが難しく多くは明確な目標があってこそ成立します。不安ななか何をしたいのか、怒りを抱えながらなにをしたいのか、妬んでしまう自分をどう変えたいのか。

 人生は選択の連続で一日の中でも多くの選択肢にさらされています。人は感情や論理に従ってその選択肢を意識的に無意識にとっています。人は完全なる自由意志で選択肢をとっているように思っていますが、これは王様が国をきちんとコントロールできるかという命題と同じです。

 王様はその能力に差があり、また、王様だけですべての物事を把握できるわけでなく、無数の国民のカオスティックな振る舞いの上に立っています。

 国を運営するには”指針”が大事です。そして、指針を柔軟に変更することも大事になります。

ネガティブな感情の対象の視点を広げ「短期的損失」より「長期的損失」こそが恐れるべきものだと知る。俯瞰的にみるクセをつける。

 これは、怒りや不安について特に言えます。

 不安は有害な事情に対する回避の感情であり、怒りは他者に対する攻撃の防衛反応です。どちらも短期的には損をしません。ところが、長期的損失が起こると途端に不合理な選択となります。長期的損失とは下記のようなものです。

  • 不登校によっていじめのリスクはなくなったが、成長の機会が無くなった。
  • 怒りによって、友人からからかわれることはなくなったが助けてくれる人間も少なくなった。
  • 嫉みによって自尊心を保ったが、モデリング(模倣)する気持ちがなくなった。
  • 眠れないから薬を増やしたら眠れたが、しばらくして薬が効かなくなった。
  • 孤独が辛くリストカットしてすっきりしたが、友達から遊びに誘われなくなった。
  • 居場所がないからゲームをすることによってネットに居場所を得たが生産性のあるものに使う時間がなくなった結果リアルで居場所がなくなった。

 さて、みなさんどっちの損失が大きいでしょう。短期的にはどれも問題ないのですが、長期的な目線、他者からみると圧倒的に損をしているどころか、悪循環の入口であることがわかると思います。

 この俯瞰的視線をみるためには簡単で”他人と話す(情報交換)”ということです。他者は俯瞰できているのですから当然です。その為、他人を遠ざけるコーピング(対処法)はどれも必ずといっていいほど悪循環を起こします。この他にもアルコール、ギャンブル、借金、ネガティブな言動、アドバイスを自ら聞きながら実行しないこと(アドバイスされなくなる)などが、短期損失<長期損失であるものです。

 これにはまっている人はみな口をそろえて「他に方法がない」「仕方ない」といいます。これを逆転する必要があります。

  • いじめについて沢山の人間に助けをもとめ、コミュニケーションスキルが上がった。(いじめの解決は別にしても)
  • 怒りによって筋トレをして、筋肉が増えて健康になった。
  • 嫉みによって努力をし模倣し、成長した。
  • 眠れないから薬以外の方法を片っ端から試して生活や健康に対する知識が増えた。
  • 孤独が辛く、同じような孤独な人を探して、一瞬だけ仲良くなったが嫌気が差して友達をやめたが自分の短所が明確にわかった。
  • 居場所がないから散歩していたら健康になり、野球している人達がいて、話しかけたら野球に参加させてもらえた。

 これらは、結果として問題の解決は行ってないですよね。でも、ポジティブな変容がおきており、またよくある話でもあります。

 道は何処にでもあり、大事なことは道半ばにころがっているのです。

”回避”でなく”準備”に行動指針を選ぶ。他者の攻撃でなく自己改革にエネルギーを向ける

 みなさん大きく誤解されていると思うのですが、すべての感情は概ね、時間と共に消えるか変化します。喜怒哀楽、抑うつ気分、不安焦燥、愛ですらです。母子愛だけはかなり長いですが、それも純粋な形では消えます。(自己愛と混ざり合うようになります)自己愛だけは常に更新され続けるので長いですが変化します。と仮定するなら、感情をコントロールするなら感情にともなってどの行動をとっても別に問題はないはずです。不合理な感情がおきた場合、究極のところ”時間を稼ぐ”ことが一番の対処法となります。ところが人には幼いころからつちかわれた特有のパターンがあり、それに従います。現状維持バイアスといって、問題を解決するのに今までやってきたAと新しい方法Bがあった場合、効果やリスクの少なさがなどの見込める結果がよっぽど良くない限りAをとります。(ADHDの私は新しい方法に飛びつくくせがあるんですがね)。まずはこの現状維持バイアスがあることを認知します。特に不安が強いかたは今までと同じ方法をとります。(しかし、おいつめられるとえいやと不安の谷を飛び越えるかたもいて人間ってすごいなといつも思います)

 ではどのような対処法が感情出現時にいいでしょうか?

 例えばよく勧めるのは”筋トレ”です。これはにはいくつもの効果があり、

  • 力みと弛緩によりリラックス効果が高い。
  • 心肺に負荷をかけ自律神経のコントロールを間接的に随意筋で行える。
  • 筋肉の肥大を感じ目標達成を感じやすく長期報酬系の構築によい。
  • アドレナリン、ドーパミンなどのコントロールの学習になる。
  • 考えられるリスクが非常に低く、自重トレだとコストが殆どかからない。
  • 社会性の高さ低さに依存しない。コミュニケーションを必要としない。
  • 5分ほどでできるなど、タイムマネージメントが楽である。
  • 室内で出来るため気候に依存せず習慣化しやすい。

 などなどです。筋肉は裏切らないといいますがそのネットミームもさもありなんといった感じです。

 このブログでは、「長期目標の大事さ」をなんども書いています。本当に大事なので繰り返しになりますが、

 人の本質にそって設定された長期目標は貴方にとっての北極星です。これがあれば道に迷いません。

 ”人の本質”とは科学的にいえば、古い脳に深く根をはったその人特有の固有のパターンです。

 大げさにいえば、愛に生きるのか、不安無くいきたいのか、名誉のために死ぬのか、好奇心のためにいきるのか。漫画で言うと第一話で”俺は○○になる!”と叫ぶ部分で、これはよっぽどのことが無い限り死ぬまでかわりません。「俺は海賊王になるとおもったけど、でも、お前のことが好きになったから海賊から足を洗うよ」といって本当にやめたらそれは本質ではありません。

 ちなみに私の本質はおそらく好奇心です。猫を殺すやつですね。

 例えば私が、怒りのコントロールをどうしようか迷ったとします。

怒る→怒鳴る。→ 一人ぼっちになる。 → おちつく。             というパターンは辛いですよね。

怒る。 → 新しい筋トレをする。→ 好奇心がみたされる。 → 落ち着く。

 というパターンであれば怒りのコントロールができていることになります。筋トレの部分は”新しい映画”“新しい”音楽””新しい場所”なんでもいいです。

 外来で何度もする質問で覚えて居るかたもいると思うのですが

どうする?どうしたい?→Aしたい。→Aのあとでどうしたい?→Bかな→ そのあと→ C →くりかえし → C”(Cと似ている選択肢、もしくは規模の大きなこと)をしたい。→C"をしたあとどうしたい→ 例 褒められたい。

 なぜ、質問をループさせるのかといえば、すべき思考の除去のためです。すべきことがすべて終わった時、人は本質的な欲求に従うことが多いと思うからです。最後に感情のチェックをするのはどんな情動が優位に支配しているかどうかをみるためです。

 もちろんこれだけはずれる場合もあり、本当に何度も繰り返し質問するのは人は自分の本質を見失いやすく、場合によってはそれを隠す生き物だからです。

 これは本当に大事な部分で、本質にそわなければ長期的な成長や変化はみこめません。 

 わからなければ人に聞きましょう。外来で聞いていただいても構いません。

感情に沿った行動にともうなう結果をリスクヘッジ(リスク予測と準備)する。

 多くの場合、行動の結果がネガティブでなければ、まったく問題になりません。赤ちゃんが怒るのと、大人が怒るのは、ハムスターが怒るのと虎が怒るのとぐらい結果が違います。しかし、当然、ネガティブな結果も状況によっては派生します。

 人は同じパターンを繰り返します。これはシナプスの構造に由来します。一度できた回路を崩すには神経細胞の死滅が必要であり、基本的には抑制系の回路を構築するか、新たなバイパスを作るかしないのです。これは道路と一緒で道があればそこをとうさないようにするには、立ち入り禁止のフダをたてたり赤信号を作ればいいのですが、歩行者や野良猫はぜったい通ります。だってちかいんですもん。完全にとおさないようにするには、道を壊すか、警備員をおいて人が通る度に忠告するか〈抑制系〉、もっといい道を作るかしかありません。

 心のコントロールの絶対原則の一つでもありますが、”意志でなんでもかんでもコントロールできるわけない”のです。これは声を大にしていいたい。博多弁だと「あたまでなんでんかんでできるというのはすらごつばい」です。

 つまり、あなたや家族が否定的な感情でやってしまったことは、もう一度やる可能性が非常に高いのです。

 典型的だと、不安に伴う回避行動や引きこもり、怒りにともなう暴言や暴力は繰り返す可能性が高いです。

 入院して、朝起きれるようになる。飲酒欲求がへり、ゲームに関心が減る。暴言が減り、頭の中がすっきりする。良くなった。やっぱり自分は大丈夫。さあ、退院しても大丈夫。前とは違う。なぜならこんなにやる気にみち、私には変わろうとする意志があり、きっと帰って仕事や勉強をすれば、もういい。こうなったのはたまたまだったんだ。入院は退屈でつまらない。家にいたほうが頑張れるはず。

 本当に何度も聞いてます。決め台詞はみなさん「意志がある」「やるべきことがある」です。

 幸運に恵まれたごく一部のかただけが同じ事を繰り返さず、多くのかたはまた同じ状態になってしまいます。

 責めるわけではないです。仕方ないことですし、試行錯誤するしかない。しかし、備えて欲しいのです。

 雨や雪に備えるように。地震や火事や水害にそなえるように。貴方が同じ状態になった場合、どうすべきか。人に助けをもとめるホットライン(直通連絡先)を引き、スムーズに入院できるように準備し、外来でもしものときについて相談し、お金を少しでもため、タイムスケジュールに余裕をもち、休息をすこし多めにする。新しい試みは小さくコントロールしやすいものにとどめ、仕事に向かっては助けてくれる人に素直に心を開く。

 先達にまなび記録をみて、後進に教えられるように記録をとる。

 人のアドバイスは時間の無駄だとは思わず立ち止まって聞き、かみ砕いてからそして先に進む。

 多くの方の繰り返しは基本はもういちどくりかえすだけですむのですが、一部の方ですと、留年や離婚、別離や借金にともなう経済的困窮につながるのでみていてハラハラします。それに、最初の入院などでしっかり学習や治療がすすめばいいのですが、結局、短期の入院をなんども繰り返すかたもいて、時間とお金がもったいないなとも思うのです。というか私が「死にますよ」というときは本当に死ぬ確率があがっているので止めて欲しいです。お願いですから。

楽したいエンジン

 楽したいエンジンは特殊なエンジンです。平和を愛し、効率をめで、改革に恋い焦がれる力です。

 この感覚が私は大好きなんですが、最初のほうは結局複雑なことにチャレンジしたり、効率化グッズに手を出しすぎて物が増えたりとか矛盾点があります。

 いつも思うんですけど、ボタン一つで治療ができるなら、複雑なことをえっちらおっちら繰り返すより当然、ボタン一つで良くなった方がいいですよね。

 心の問題をつらつら眺めていると結局のところ、合理的でなかったり効率的でなかったりするところにぶち当たることが多いです。そこがボトルネック(砂時計の細い部分、ホースの細い部分)になり効率的な変化を妨げます。

 そこを見極めるのが、医者としての腕の見せ所の一つだとも思っています。

 楽したいエンジンはおそらくほぼほぼ前頭葉機能だけで成立するエンジンではないかと思います。あまり快感をともなわない。むしろ”感情からの開放”に重きを置いたエンジンです。 苦痛、悲しみ、不安、苛立ちからどのように開放されるのかという感覚なのです。短期間で楽というのは結局あとでその分の負荷がくるのでそれは私からいわせれば全く楽ではありません。(やっちゃいますけど)

 じゃあ、どのように効率化していくか。この方法は本当にバリエーションがあって面白い分野ですけどいくつか簡単なのを書いていこうと思います。

  1. 刻んで刻んでハックハック
  2. どこを変えるか? 重要性と可変性で選ぶ。
  3. 問題が滞ったらさらに刻む!
  4. トライアンドエラーの繰り返し。よちよち歩きこそ偉大。
  5. 困ったら外注。そもそも殆どの悩みはだれか通った道。年々情報は増えている。
  6. エウレカ!!となったら他の人に教えよう!

 ちょっと大好きな分野なので筆圧高めです。

  刻んで刻んでハックハック

 みなさん、ハッカーとはご存じでしょうか? キーボードをカタカタ叩いて、銀行とかFBIに華麗に侵入するあれですね。もともとハックhackとは切り刻むという意味で欧米のギーク(テクロノジーオタク)たちが、電話、パソコン、電子システムなどを細かく切り刻むように(知りたいと思うことのためならゴミ箱すら漁る)分解分析し再構築する様子からついた言葉です。lifeハックという言葉がありますね。それは生活を便利にする知恵みたいに使われています。

 ここでは、いくつか小説DVDと、利用者さんの悩みに答えた私の手紙を紹介させてもらいます。

 

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一つ目は大好きな映画の一つですね。簡単にいうと、火星のロビンソンクルーソーです。

 小さい頃に読んでいた本がまだあるかなと思っていましたが、もう絶版でしたね。今の子ども向けのロビンソン・クルーソーはアニメっぽくて違和感があるのですがきっと読みやすいのでしょうね。

 ロビンソン・クルーソーを知らない方に簡単に説明すると”無人島に一人で漂着して必死で生き延び、そして家にもどる”という物語です。それが火星で一人なんで、無人島に漂着よりハードルが格段に高いんです。それを主人公は科学的知識と、持ち前のポジティブさで一つずつ解決していくという話です。

 この話の魅力は最後の主人公の台詞に要約されています。目の前の問題をひとつひとつ解決することが大切だ、そうして解決していけば地球に帰れる

これはメンタルケアにもこの大原則は非常に大事です。うつですと、元気になりたいという命題になります。これはこの映画でいうと「家に帰る」ですね。

 人は大きな問題を前にすると頭が考えられなくなります。だから逆算が大事です。

 その前の状態は生き延びるです。じゃあ生き延びる為になにが必要かと水、食料、酸素ですね。じゃあ水をどうするかということに具体的になってきます。水はH2Oだから 水素と酸素がいる。もっとこまかくなります。じゃあ、水素は?宇宙船の燃料から。じゃあ酸素はといった具合です。

 これをうつを命題にして考えると、もとにもどりたい→もとの状態とはなにか→眠れて、気分が落ち込んでいない。→眠るためにはどうしたらいいか→記録をとる→トータルでは臥床はできている。脳がやすめていないのか→脳をやすめるためには→心配事があって眠れていない→心配事を全部書き出す。→同じ事しか考えていない→別のことを考えるにはどうしたらいいか→人と話すときは例外→人と話すことを増やす。

といった具合に逆算していきます。これは収束思考の逆算であるので”答えが明確であること”が大前提となります。

 もちとん、うつ病ですと考える事もおっくうなので、大変なのはわかっています。でもゆっくりでもいいし、パソコンやペンや紙、本などの道具もあるのでそれをつかいながら一歩一歩やれば、死なない病気であれば必ず解決するはずです。がんは死ぬので怖い病気ですが、がんでしなないなら沢山の選択肢がとれるはずです。

 本当に大事なのは大きな問題を解決する力ではなく小さな問題を解決する力なのです。

 最後にこの火星の人の作者の新作を紹介してます。あらすじ=ネタバレなので詳しくは紹介できませんが、

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これは、火星の人より格段に面白いです。紛れもない傑作で漂流物+友情物+ハードSFで好きならはまること間違いなしです。おすすめします。

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 次に紹介するのは、フィクションではなく実在の人物の遭難の記録です。

 ご存じの方もおられると思うのですが、実在のクライマー山野井泰史です。この方は、夫婦でヒマラヤの下山中に嵐にあい、高度障害と極度の体温低下のなかでなんとか生還されたかたです。極限状況のなかで決してあきらめることなく、パニックになるととなく行動する様子が詳細に描かれています。遭難ものでは”運命をわけたザイル”など名作があるのですが、共通点として、”目標を細かく分けそれに集中する”といった特徴があります。指が凍ってひもがゆるめない。じゃあ口でやろう。ひもが結べない。じゃあ口と全身をつかってやろう。そしてそれが時間がかかろうとも集中する。当然、恐怖や不安、絶望といった感情もあるでしょうが、とにかく目の前の小さな目標に集中する。張って歩くしかない。じゃあ、あの岩まで。それでも難しい。じゃあ、まず30センチ。などひたすら生還に向かって積み重ねていきます。

 この遭難はメタファーとして、外来でよく使います。実際に、精神科の疾患やその他の病気ににかかるということは、登山中に滑落するのと似ています。

 人生の予定がくるい、機能を失い、人とのかかわりを失い大きく後退するどころか、人生の存続の危機にさらされている。不安でしかたないし、もう終わりだと絶望がすぐ後ろまで迫ってくる。

 そんなときにどうすればいいのか。結局はそれは、行動の積み重ねしかないと思います。

 わからなければ人に聞く。実験されているような感覚はあるかもしれないが、薬も試しにのむ。副作用も冷静に観察する。少しでもいいから本をよみ情報をあつめる。できないと決めつけず、1ページを読めないならもっと簡単な本にする。外来で出された課題ができないならなぜできないか考える。ほかになにができるか考える。考えることができないなら見る。見れないなら聞く。聞けないなら触る。

 といった具合でやっていくしかありません。本当に地道な積み重ねがやはり生還につながることは医療もクライミングも同じではないかなと思っています。

次に、利用者さんとやり取りした手紙を掲載させてもらいます。

この質問の答えが下記です。電子カルテで内規でUSBをさせないため、印刷したものをスキャンしてます。

このやりとりは日常の診察で私が考えていることを割と視覚化できたので本人の許可をとって載せてみました。もちろん質問には行間があり、アドバイスでなく共感が欲しいだけの場合もあります。この場合、アドバイスが欲しいといわれたのでこんな書き方になりました。これをみるとわたしが、兎に角問題を可能な限り細かくして、解決の順番をきめていることに気がつかれると思います。

 このコアとなる考えは基本、どの診療でも一緒です。診療どころか人生でも趣味でも一緒ですね。

 このやり方の良いことは、細分化して考えると個々の部分では感情に振り回されなくて済むということです。

 全体像を眺めると、苦しい気持ちになったり、期待があったり、甘えがあったり、かまちょがひょっこりはんしたり、不安で動けなくなることもあるけど、細かい部分ではそれはコントロール可能な事象でありますし、集中も容易でストレス強度もさほどないので楽なんです。

 たぶん、多くの方が仕事や勉強ではこのやり方をやられているし、至極当たり前のやりかたですけど、でも問題は、トラブル時にやれるかどうかだと思います。前述の小説の主人公達はこれができているんですね。利用者さんは感情に圧倒されてできていない場合が多い。でも時間をかければ出来るようになります。

 ただ、ある程度の全体像と明確な目標設定と自己理解が必要なのでハードルは高いのですが、このやり方を習慣づけると壁はなくなりあるのはただの階段だけです。

 今日はここまで。

どこを変えるか? 重要性と可変性で選ぶ。

前項では、問題を刻んで細かくするところまでやりました。次は解決する順番になります。

 簡単なやり方としては二軸で判断します。なれてくると、書かなくても大丈夫なんですが、まずは紙に書きだしましょう。

 三軸(難易度、重要性、コストや利益等々)で考えられるようになればリーダーやマネージャーの仕事に役に立ちます。

 

 このようにざっくりとわけます。すると最初に解決できそうなのは「リラックス時の雑音の問題」になります。

 リラックスするという課題で次に考えていきます。命題”リラックスの質を高める”となります。

問題が滞ったらさらに刻む!

 命題が決まったらその解決方法を探っていくのですが、リラックスといっても実際は幅広いですし、ざっくりしています。これをさらに切り刻んでいきます。

リラックスとは

心のリラックス? 体のリラックス? いつどこでリラックスしたいのか? 何分のリラックスはできるか? いまできているリラックスは?それをどのように長くするか? 今まで試してダメな方法はなにか? 昔、やっていたリラックス方法はあるか? 試したことがないリラックス方法はあるか?

 等々をさらに刻んでいきます。これをさらに2軸や3軸評価でわけて、命題をより具体的で実現可能なものにしてきます。昔、成功していたものは今やっても成功する可能性が高いです。

小さいころ、釣りが好きだったら今も好きな可能性が高いです。この思考のなかで、音楽を聴いているときはリラックスするなというのであれば、音楽を聴いたり、簡単な楽器をするのは楽しいのではと思います。

 大事なのは命題のスケールが小さいということです。小さいものはコントロールしやすく全体像も把握しやすいです。

トライアンドエラーの繰り返し。よちよち歩きこそ偉大

 大きく回復することを喜ぶ人と、小さく回復することを喜ぶ人はどっちが回復がスムーズでしょうか? 一歩一歩の山の登りを楽しめる人と、山頂につく喜びは大きいけど、登りにはあまり喜びを感じない人はどっちが山登りを楽しめるでしょうか?

 大きいたき火と小さいたき火はみなさんどっちが好きでしょうか? キャンプファイアーみたいなたき火とマッチ棒みたいなたき火どっちが、あったまってどっちがコントロールしやすいでしょうか?

 計画立案の際には、広い視点や、俯瞰視点は本当に大事になりますが、実行レベルになると邪魔になるときがあります。ポイントは大きくみて小さく歩くです。これは本当に苦手な方が多いです。でもできるようになれば別にアドバイスしなくても自分で自分をよくできるようになります。この小さな歩みを、ポジティブとネガティブエンジンを使って習慣化できれば人はどこまでも変わっていけるようになります。

 金持ちになった人やプロスポーツ選手がいう”結果よりプロセス”という言葉の本質がここにあります。外来で繰り返しいう”一歩が大事”というのは問題を刻みそれをプロセスにかえていくという行為そのものです。

 足元に咲く花をめでるような登山のように人生を考えることができれば、日々のなにげない時間がなんと価値あるものに変わっていくでしょう。一つ一つが勇気によって克服した道のりであるならば、あなたが通った道程は結果がまだでてなくとも、あなたやあなたの道を後ろからくるものにどれだけの勇気と希望を与えるでしょうか。

 そうした目線を得た瞬間、あなたはアリのように小さなものから学び、風から、雨から、隣人のなにげない一言から、すれ違う人々の何気ない優しさから様々なメッセージを受け取れるようになります。この世にあるなにもかもがあなたにこの虚無で寄る辺のない世界に生きるすべを教えてくれるようになります。

 困ったら外注。そもそも殆どの悩みはだれか通った道。年々情報は増えている。

 問題を細かく刻むことは対策を立てやすい以外にメリットが多いです。それは人に相談しやすく、問題解決方法を探しやすいです。検索は具体的細かい方が当然ヒットします。

 私の実感でエビデンスはないですが、精神疾患は日々軽症化し、我々に求められるタスクも変わりつつあると思います。その一因が情報革命だと思います。インターネットがない時代は精神科の受診のハードルは高いものでした。多くの人はは自力で解決するか社会の片隅にひっそりといたのではないかと思います。本当に切羽詰まってから受診するようなものでした。それが専門的な情報のアクセスが格段によくなって、自己判断ができるようになり、選択できる方法も増えた。また、利用者さんのめもこえるから、求められる資質も変化していった。そんな所でしょうか。

 そして、多くの方の悩みは誰かが通った道のりの上にあります。全部が同じなわけではないですが、問題を刻むことができれば、その部分をみれば誰かが悩んでいることであることが殆どです。

 道をたずねればきっと方法はあります。でも、探さなかったり、聞かなかったりすればなにもわからないでしょう。

 また、現代社会は様々なサービスや福祉が存在してますし今後もサービスは成熟され増えていくことでしょう。考える事が苦手なら考える事が得意な人に、気持ちを整理することが苦手なら整頓が得意なひとに、感情のコントロールが難しいなら得意な人にやり方を尋ねることが大事かなとも思います。

 

 エウレカ!!となったら他の人に教えよう!

 エウレカとはギリシャ語の感嘆詞で、意味としては“みつけた!””わかった”というものです。セブンなあれのことじゃないです。

 最後に、楽したいエンジンの大事な部分は、創意工夫がうまくいって、効率化やコントロールがうまくいったのなら様々な形で人と共有しましょう。これはいくつものメリットがあって、一つは言語化したり人と話すことでよりやり方が明瞭になり洗練されること。人が実践していたら効果を客観視できること。人に感謝されたりすることで快感の回路がより密接になること。

などなど自分にも様々なメリットがあります。

 外来で教えていただけたら、他の方にも教える事が出来ます。

 ぜひ皆さんの創意工夫を教えて下さい。

まとめ

 さて、三つのやる気スイッチについて、そのコントロールのやり方について、説明していきました。それぞれ時間はかかりますが、実現可能なものばかりだと思います。ただ、やらない人のほうが圧倒的に多いですね。

 人には現状維持バイアスというのがあって、基本的には同じ事を繰り返したがります。新しい事に対する不安があるのは当然なので仕方ないことです。その場合はあまり切羽詰まっているわけでないの別にいいのだと思います。

 メンタルのコントロールの難しさというのは、アウトプットはわりとシンプルだけど、インプットは古い脳を経由したり、情報の大本である世界があまりにも複雑過ぎて情報量が膨大であったりする冗長性から意識決定に様々なバイアスがかかっているという矛盾からきてます。

 その矛盾を可能な限り意識しつつ情報と意志決定のラグを少なくするということがメンタルのコントロールの基本だと考えています。

 そこにはある程度の原理原則があり、良質なパターンがあります。その逆で悪質なパターンもあります。

 ここで書かれている情報は私が外来やベッドサイドでいっていることの補完なので難しいとは思います。

 でも、俯瞰してみてみると結局は上記の原理原則を繰り返しいっているだけにすぎません。別の言い方をすると、われわれはわれわれのことをあまりにも知らなさすぎる、わからなさすぎるのです。

 わかるためには他者と関わるしか道はありません。あーでもないこうでもないというしかないのです。

 個人的な友人や同僚らとあーでもないこーでもないと話した日々は私にとっての大事な宝です。ご自身にとっても、プロセス自体が宝になる日がくればいいなと願っています。

 これで終了ですが、誤字脱字の修正や加筆をどこかでやります。長文を読んでいたいてほんとにありがとうございます。

  • この記事を書いた人

モジャクマシャギー

 アラフォーの精神科勤務医です。自分の外来や診療が円滑になり、利用者さんの治療がスムーズになることを目標にブログを書き始めました。   ですが、いろんな方にもみてもらってやくにたてたら嬉しいです。  病棟業務を中心に児童から認知症、最近はインターネットゲーム依存まで幅広くみています

-02 脳の機能について