紹介しようかどうか迷ったんですが、好きな本なのでやっぱりあげときます。この本は正直小難しいです。理屈っぽいですしいわゆる人を選ぶ小説です。表面上のストーリーは離婚が傷になり回避傾向の強いプレイボーイの外科医が恋人を作り、その浮気に恋人が悩んでいたとことプラハの春という革命がおこり、生活の基盤をすべて失い別の国に亡命するという話なんですけど、最初に、ニーチェの永劫回帰とパルニメーデスの「軽さと重さはどっちがいいのか?」という形而上学上の問いが提示されるんですね。
タイトルも男女四人とプラハの春みたいな軽い感じでなく「存在の耐えられない軽さ」ですよ。
結論からいうと、この本を紹介するのは読む前と読んだ後でみごとにものの見方がかわったからです。まさしく、最初にだされた命題”軽さと重さはどっちがいいの?”という問いに対して本当に深く深く考えることができるのですね。
主人公であるテレザとトマーシュは二人の関係性に悩み、それは人間の本能について悩み、そして国が変わっていくことに翻弄されつつ人生を激変させていきます。また、トマーシュの愛人であるサビナは軽さの象徴ですが彼女も様々な悩みにさらされます。
ここでいう軽さとは例えば自由や本能、葛藤の無い状態をさし、重さとは、不自由、規律、葛藤をさします。
この本は色々な見方ができる小説ですが、私には、変えられるもの、変えられるもの、運命と宿命、自己愛と他者愛、本能と理性など二律背反するものの間で揺れ動く男女の葛藤を深く深く掘り下げていくのですね。
ネタバレを含むので詳しくはかかないですが、ラストも私にとってはハッピーエンドですね。
ただ、映画版と小説版はラストが大分変わっています。映画版はわりとこの小説の本質の上澄みを綺麗にみせていますが、基本的には恋愛を主軸にとらえているのでちょっと小説とはずれがあるのですが仕方ないと思います。
小説を読む前は、人生なんて軽くて悩みなんてないほうがいいだろうと思っていましたが、この小説を読んだ後は、もともと我々の存在なんて拭けば飛ぶような存在であって、軽ければいいわけでなくその悩みや葛藤こそが、我々の存在を地上につなぎ止める重力のようなものだと気付かされます。軽すぎるということは死んでいるのと同じことなんだなと。
よく外来でいうのは「鳥と土竜どっちの人生のほうがいい」とうい質問をします。これは、悩みがなければいいのかという命題を深く考えて欲しいからでもあります。
この小説を思うといろいろな悩みも、私の存在をつなぎ止める重しなんだと思えれば少し楽になります。