循環を利用して心をコントロールする。
人間に本当に必要な荷物はなにか?
かつて心が管理できる範囲は狭かったです。シンプルなキャンプをしていくとすごくよくわかります。
ロングディスタンスハイキングというアウトドアのジャンルがあります。これが好きな人達はリュック一つで何日も歩き続けるんですよ。もちろん食べ物の補給とかは必要なんですけど。リュックといっても荷物を軽くするためにペラペラの袋です。そこに入るものだけで大自然のなかを遠くに歩いていく。 人によっては年単位で歩く。
動物は荷物をもちません。かたや人間は衣服を始めとして人体を拡張することで生物圏を越えた拡張をみせ宇宙ですら旅行に行ける時代になってきてます。
服で皮膚を拡張し、炎で体温調節機能と消化機能を拡張、巣の機能を充実させ、文字で長期記憶とコミュニケーションをかえ、生命機能そのものをすべて拡張しようとさえしてます。とくにめざましいのは情報の機能拡張です。情報収集、情緒機能、視覚記憶それらをポータブルな演算装置に頼り、そしてその向こうにある人間を越えたネットワークに影響をうける。 アルコールや薬物、音楽、ゲーム、動画によって情緒をコントロールする。
しかしわれわれは我々は両手をコントロールするように、大脳の拡張装置をコントロールできているでしょうか。
強くなるための三つのC 変わるための三つのC
早口言葉のようなタイトルです。
ストレスには三つのCが大事です。ググると二つの三つのCがでてくると思います。
ちょっとややこしいですが まずは、
Suzanne Kobasa博士のハーディネスに関わる三つのC
- Commitment 関わる事 参加している意識
- Control 制御できていること
- Challenge 挑戦であること。
これはストレス耐性に関わる三つのCです。防御の為の三つのC。ハーディネスと呼ばれているストレスに強い人が持っている三つです。(これを知った本を持っていたんですが手放し、Kindleで探したのですが絶版になってました。代わりにストレス関連本はむちゃくちゃ種類が増えててビックリしました。)
そして 認知行動療法の大野裕氏の提唱するものです。
心の健康を保つ三つのC
- Cognition認知
- Control 制御すること
- Communication 誰かと話をすること
これは心の健康を保つ三つのCです。変化のための三つのCですね。イメージとしては攻撃力を高めるって感じかな。
合わせて5つのCでいいやないかと思うのでもう5個のCといったろかと思うのですがみなさんどうでしょうか。おこられますかね。
外来ではこのことを40km走れという無茶振りのストレスをどう考えるかというたとえ話でだします。40kmいきなり走れといわれて走らないといけないストレスを与えられたらどうしますか? いやですよね。意味がわからないし、走れるかわからないし、無理やりなんでいやだし。わけがわからなしですよね。
でも、マラソン選手だったら? これは自分に必要なことでチャレンジだし、制御可能な状況になりますよね。じゃあ、この地獄のような状況でどう乗り切るかと考えたら、コースを調べ、状況を把握し人に尋ね、そして状況を制御下に置くことが大事だってなりますよね
コントロールの重要性
コントロール出来なくなったときは、心が病みやすい。
インターネットゲーム依存、アルコール依存、薬物依存、ギャンブル依存等の様々な依存ですね。
逆にコントロールできれば改善もしやすい。 うつ病、統合失調症、認知症は環境の影響をダイレクトに受けます。不安障害も当然刺激のコントロールで改善する見込みがあります。
いや、そもそもここをコントロールすることなしにはもはや困難なのじゃないかと思います。
ただ、この情報の悪い面ばかりでもなくて、そもそも今のメインストリームである認知行動療法自体が、認知機能自体が保たれていることが大前提としてあります。 機能低下が著しい疾患に関しては、適応がないんですね。
でも、このトータルでの循環を改善するという視点に立つと、影響は当然ありますが、主体事態の影響は大分さがります。 すごく当たり前のことで日常の診療でやっていることを今さらという感もありますが、我々医療者では共通言語化できても一般の人とはずれがあります。
循環を利用して大きな変化を起こす。
それではどうやってこれを治療に利用するかをざくっと書いていきます。個別のことは各論で述べていきますからかなりザックリやっていきます。
循環を変える主な工程
- 循環に関わるものを把握します。ここが医者としては一番時間のコストがかかります。
- 次に悪循環を止めます。
- 悪循環がとまって恒常状態になったら好循環を起こす試みを始めます。
3-a 過去の好循環があればその仕組みをつかって変化をうながします。本人がやろうとしてた試みをやるのもいいでしょう。
3b 過去の好循環がなく、またあってもうまくいかない場合は次のステップです。 - 脳の本質の査定をします。知性のフラクタクルの根本部分ですね。なんに対して喜びを感じるか、行動のパターンはあるか、行動を観察して一貫している行動原理簡単にいえばその人の本質を探ります。三つ子の魂百までの部分です。
- 本質の部分と一貫した最終目標のイメージを共有し、それにいたる行動を分解し、最初の最小単位の小さな課題を設定します。この際に暗示をもちつつ認知の歪みも修整していきます。 極端な例 本質 高い所に登ると喜びを感じる 最終目標 エベレストに登る 最小単位の行動 1日一歩だけ大きな荷物をかかえて坂道をあがって下る。
- 課題を繰り返し行ってもらいそれが当初ねらっていた変容を起こしているか確認します。問題があれば4からやり直しです。 例 山の事を考えるようになってサークルに入った。
- 好循環が起これば課題を大きなものに変えていきます。この際に、可能なら言語化、支援者とも共有し、本人だけの変化でなく周囲の変化も起きるような仕組みを作っていきます。例 習慣的に山に登り、自分に自信がついた。 山の道具を買うためにアルバイトを始めた。山の道具を整理するために家を片付ける習慣がついた。
- この際の環境調整は自身がやることが望ましいが、支援者や医療側が最初のステップの環境調整はしてもOKだがある程度すすめば自身にやるようにうながす。
字面だとすごい簡単なんですよね。実際にやってみれば簡単なんですけど、実際にやると様々な困難があります。
行程を妨げる要因
1)そもそも主治医に本当のことを話していない。場合によっては嘘をいっている。
2)信頼関係がないから言われたことをやりたくない。
3)様々な要因で自分はできると課題を安請け合いする。
4)周りにいわれているだけで自分を変えたくない。このままでいいと思っている。
5)話したくない(話せない)
6)自分のことがわからない(わかるまで成長してない)
7)新しい事をやるのが苦手。考えすぎてできない
8)悪循環がとれていない。
9)余裕がない。脳の機能低下が著しい。本人を悪くしたいそのままにしたいという周囲の思惑がある。世話を与えすぎて悪循環を起こしているのに不安や愛情から世話をコントロールすることができない。
理論的には信頼関係があり査定が正確であれば一度ちいさな好循環を起こしてしばらく維持すればあとはほっといても変わっていきます。それが最終的には症状の軽減に繋がるのですが、そんなに簡単にはいきません。
循環をコントロールする
循環でみていくと、心の健康を保つためには自身の気持ちや感情のメンテナンス、認知だけでなく様々なことに気を配らないといけないということがわかります。
体と心の循環
まずは体です。これはいうまでもないですね。自分の体を大事にしないひとは心を大事にしない人とと一緒です。 体がわるいと心もわるくなります。 睡眠、食事、血糖値、覚醒度をコントロールできているかは非常に重要です。
リストカット、お酒、薬の乱用は短期的にみるとストレス解消法としては、低コスト高リターンのようにみえますが、短期間のリターンと傷跡や二日酔い、副作用という利息を払わないといけない借金のような振る舞いをします。筋トレや適度な運動は、短期的にみると高コスト低リターンですが、長期にリターンがあり、良質な投資や商売を行っているようなものです。
借金が好循環を生むのは、利息よりも大きい利潤を生む場合のみです。
心と住宅環境
次に住宅環境です。
断捨離という言葉が流行った後、もう定番となりましたね。ミニマリストなどみのまわりのものを最小限にする人も多いです。
断捨離は心にいいです。これは循環でみると、コントロールを取り戻しやすいからです。ADHDの人は時に自分の生活のコントロールを失いがちですが、新奇追求性がたかく、生活にものがあふれがちです。家を心の反映と考えると、目にうつるところに置いている物はワーキングメモリー系、棚の中のものは長期記憶系になります。キャパシティと釣り合っているなら別に問題はないのですが、生活の変化、仕事の変化、加齢に伴い往々にしてコントロールがつかなくなります。
プロスペクト理論とゴミ屋敷
https://news.mynavi.jp/article/20210312-1748074/
プロスペクト理論は色々な確率で起こる出来事に対して人がどのような選択をするかをまとめたものです。 人は損する恐怖>得する喜びでであるという傾向があるようです。損と得を勘定するのに、数学的確立でみれずバイアスが強いという傾向です。捨てるという行為は最終的に利益を生み出すけれども、目先の損失のほうが大きく感じるというバイアスがあります。エビデンスがあるわけではないですが、ゴミ屋敷の要因の一つは捨てる恐怖が行きすぎた結果、悪循環を引き起こしおきたのではと想像しています。 このバイアスに気がつくまでは私もものをため込む傾向が強かったです。加齢と共に管理する能力が下がったのもありますが。
人間関係のコントロール ヘッドライトを見にいく鹿。台風の田んぼをみにいく。
人間関係のコントロールはいくつかありますが、ここでは特に重要な二つ。関係性を築く人のコントロールと、ルーチンのコントロールが重要です。
関係性のコントロールに関しては自分のくせを認識することが肝心です。
一例ですが、虐待された子やトラウマティックな体験をした人は、不安が強くもの音に敏感な野生の猫のように自分が属する集団のちょっとした違和感に敏感で”苦手なものに顔を突っ込む”といった一見矛盾したことをおこないます。 たとえば異性が苦手といいつつそこから目を離すことができず、明らかに自分を大事にしてくれない異性と関係を築いてしまい、ヘッドライトを見つめてしまって目がはなせずひかれる鹿みたいになることがあります。
親なんて嫌いといいながら親みたいな人と付き合っているってのはあると思います。 このパターンはネットで有名だと「台風に田んぼをみにいく」(実家が農家なので気持ちはすごくわかります)みたいなことを人間関係で繰り返してしまうんですね。
これは客観視できないと本当になんども同じパターンを繰り返します。再体験を起こしてトラウマを追認し、変容が起こればいいのですが多くの場合追体験で終わってしまいます。
挨拶のパワー 潤滑油、バッファーとしての雑談。
もう一つは、挨拶や雑談などのルーチンの見直しです。これもエビデンスがあるわけではないですけど、挨拶できる統合失調症の人のほうが予後がいいですよ。発達障害も同じな気がします。
しない習慣の人に子供を諭すように挨拶をうながす看護師さんがいてみていると習慣化すると被害妄想が軽減していくのが観察できます。
テレビで事件を起こした人の近所にきくという取材は定番ですが、犯人の人柄エピソードはだいたい、”挨拶”ですよね。
大好きな漫画の”アフロ田中”シリーズで主人公の田中が大声で挨拶をしてみる。というシーンがあるんですよね。そしたら、すごい楽しくなったって話なんですけど。
循環でみると挨拶は低コストで信頼がプールされていきます。挨拶できない人とする人では人生が大きく変わるのは想像に難くないです。 雑談は挨拶に比べるとハードルは高いですが、分解するとたいしたことは話してません。しかし、社会的ひきこもりの方、発達の苦しみがある人には苦手です。
- 100%共通の話題。 天気
- ほぼ 共通の話題 家族、子供、服、髪型
- 大体、共通の話題 勉強、仕事
- 共通ではないけど興味関心があるだろう話題。趣味性のもの
- まったく共通ではない話題。
数字の順で話しているだけです。相づちもリアクションも10もみたないパターンなので覚えてしまえば簡単なんですけどね。私も苦手だったのですごく気持ちはわかりますが、よく観察してしまえばなんじゃないことをやっていますよね。
これは家族に対してこれをすることを強くすすめます。家族を大事にできるひと、関係性を常に維持できる人は本当に予後がいいので、病気を問わず、親しい人にたいしてこそ、挨拶と雑談はすごいすすめます。
状況をコントロールすることと、状況に振り回されるのは、ただの順番の違い。
こうやって説明してみて再確認したのですが、やはり心の具合が悪い人はこの循環を引き起こすリソースを大事に扱っていない気がします。
指摘してもできない場合が多いです。
それはなぜか?
知らないからと思いますね。タバコよりも挨拶のほうが気持ちが楽になることを。
状況に振り回されるのと、状況をコントロールしているのは、俯瞰してみるとただの順番です。 ①事象の前に意志決定をしているか? ②事象の後に意志決定をしているか?
これはどっちも大事で偏ると破綻を来すのですが、循環の俯瞰の視点をもつだけで気持ちが楽になるのは、事象の前に意志決定をすることが可能で楽になるからだと思います。
こう考えると難しくないですよね。
本当に簡単なことで世界はがらりとかわります。 それは屋根の上に登るようなもの、いつもみている山に登ってみるような簡単なことで世界はその美しさと懐の深さを教えてくれます。