ヘルマン・ヘッセといえば、不登校児のイコン「車輪の下」が有名です。ノーベル文学賞をとった作品群は内面世界を掘り下げて書いているため構成が複雑で語りが多くとっつきにくい部分がありますが、この短編集は描写と台詞が主体で非常に読みやすいです。表題の話とラテン語学生は失恋と郷愁をテーマに描かれているのですが、その時、私は生まれて初めて人を好きになる感覚をしって、また不器用を絵に描いたような対人関係のスキルしかなく、おそらく多くのかたが体験したであろう失恋の傷付きのど真ん中でした。振り返れば、あの時は両親に相談できる状況になく、話をうちあける友人もおらず、ズキズキと痛む気持ちを抱えながら、毎日学校に通ってました。
この本は、学校帰りに買ってバスのなかで読んでいたのですが、夢中になって読み目をあげると家の近くで、読む前とくらべ少しだけ気持ちが楽になったことを感動していました。
失恋や悲しみは美しさもあるんだよと教えてくれた本でもありますし、人に癒やされる体験を教えてくれた本でもあります。
失恋文学としてはゲーテの若きウエルテルの悩みがありますが、あれは最後は自殺しちゃいますし、車輪の下も最後は側溝で死体となってみつかるので、主人公がそうなるのは中編の構成やテーマ上そうせざるを得ないのはわかるのですが、精神科医としては死なないウエルテルとか、引かれない車輪とかよんでみたいですね。
なんにしろ私にとっては人生を変えた大事な本です。多くの本は手放したのですが、この本は大事にとってあります。