ついつい医者スイッチが入ると難しい本を並べがちで、もうしわけないです。簡単なというと聞こえが悪いので、間口がひたすら広くそして深い漫画を紹介します。
このマンガは宇宙について描かれながらその実、テーマはシンプルで”愛”とはなにかについて描かれます。他の科と違って(いや他の科でも本当は大事なのですけど)精神科の特殊なところですけど、こうターゲットになる疾患を治療すればはい終わりというわけでないと僕は考えているんですね。学生の頃に二人の指導教官がいて一人の人は厳しくて知識をひたすら教えてくれました。もう一人の人はなにも教えないんですよ。最初の一言が「ゴルフやるね」でした。 年上の同僚に飲み会の時に「なにを学べばいいかわからない」と嘆いたら「あの人はきちんと患者を治している。先生が患者を治療してからそういうことはいえ」と言われたんです。その後、その先生のことをみていると兎に角、患者さんの話を聞いているんですね。しかも診察室外とかベッドサイド外で。あの時は言語化できなかったんですけど、その時の大学には運動場代わりの卓球場があったのですが(立て替えの時になくなったみたいです)そこでまるで友人のように話を聞いていた姿は目に焼き付きました。
おそらく他の医者はAIやロボットでもできると思うんです。診断や服薬も同じようにAIで精神科はできるでしょう。でも、”愛”というメッセージは人から人でないと伝わりにくい。
他の科は知らないですが、基本精神科のレビューは荒れます。端から見ていい先生だと思っても結構ネットで悪口をかかれてたりします。
診断が適切で薬が適切であっても荒れるんです。なぜか?
私見ですけど、うちの科の門を叩く人達はみな、愛に傷付きを抱えた人達ばかりです。自己愛、情愛、友愛、親子愛、人類愛、愛といっても形は様々なんですが、なにかしら傷ついていたり、花が咲いていなかったりしている。
でも、うちの科で再度傷付きを体験する。それには直面化させられる、軽く扱われる、目をみてくれない。時間が短い、期待と違う反応。様々な要素がありますし、善し悪しはおいといて大なり小なり傷つく事も多い。
ここでずれが生じてるんですね。僕らは病気の治療の対価としてお金をもらうという構造だと思いがちですし法律や社会通念では間違いなくそうですけど、でも本当は生きてもいい。そのままでもいい。でも必死に生きましょうというシンプルなメッセージが砂漠で水を欲するように必要としている場合が多々あるんです。
ただ、ここは科学でなく対人間なので相性があって、例を一つあげると僕は自己愛が肥大した人に苦手意識があります。恐怖心といってもいい。(そこはプロですし基本チーム医療なので大丈夫ですが)逆に、自己愛が痩せ細ってしまった人には逆に安心を覚え向こうも安心を覚えてくれるという特長があります。これが外来でいう治療の相性の一例です。
うつ病、統合失調症、不安障害、認知症、様々な疾患があります。愛の問題が無い場合もありますが、人は愛なしでは存在をみとめられないとのと一緒で深い苦しみを体験します。
ここに気がつかなければ結局治療はうまくいかないことも多い。逆にこの問題をクリアすれば一気に氷が溶けることも多い。
ちょっと脱線しました。どっかで章をもうけます。
さて、このマンガは様々な愛をテーマにしています。
愛の喪失、自己愛、人類愛、宇宙に対する愛。まあ、タバコに対する愛などもありますが。ここで宇宙は各キャラクターの映し鏡として”ただある”という存在です。火星にいくという大まかなストーリーはありますがでも描かれているのは、愛の喪失と執着、自己愛の傷つきと再生、人類愛、そして男女の愛。親子愛。宇宙を舞台にして居る御陰で、夜に月を眺めるような気持ちで愛というものを感じ、また考えさせられます。多くのマンガや小説は愛の苦しみを描くことによってその本質を浮かび上がらせようとしますが、このマンガは宇宙が舞台ですので愛の素晴らしさをみごとに浮かび上がらせています。それが作者の計算なのか天性のものなのかわかりませんが、とにかくもし、あなたが愛というものがなにかわからない、知りたい、愛する事につかれた、自分が嫌いという人には本当にお勧めです。