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05 心にいい寓話

C1)脳の機能 ニューロン、記憶、未来予測、マインドフルネス

 ここでは様々な脳の機能とそのクセのつよい特徴について語っていきます。いつも一緒で大事な友人なんだけど、コンピュータ君みたいなシュッとした感じではなく、野暮ったかったり、アホだったり、いろいろ突っ込みどころがあるのが我々の脳君です。その分、私は可愛いと思えるんですけどね。嫌になることもありますが。特にその限界についてここで書いていければと思います。

ニューロン 鳩を飛ばして回収する細胞。

 人とコンピュータの回路の違い

 コンピュータは最小化すると1+1=2といった”回路”によってなりたちます。算盤が一番わかりやすいのですが、今の子は算盤とか知らないでしょうね。

 ”オンオフのある回路である”という点では脳もにているんですが、シリコンウエハースベースの回路とは違い、炭素ベースの神経回路は非常にあいまいな仕組みで接続しています。
 例えていうなら”鳩”を大型船から大型船に飛ばしているみたいです。

 

 シナプス間隙(かんげき)を船で例える

 A大型船があって隣にB大型船があるとします。(そばには後述のC大型船もあります。)それぞれ大きな船で端から端はながいです。A船のお尻(船尾)とB船の頭が(船首)が一番近くてならんでいると想像してください。
 A船の船尾には鳩小屋が無数にあって管理人A(シナプス小胞さん)さんとB(ナトリウムチャンネルさん)さんがそれぞれいます。 A船尾には鳩小屋の中には無数の鳩がいてB船首には鳩が食べる餌ととまりぎが用意されています。
 それぞれの管理人はいつも寝ています。
 Aさんの椅子には電気が流れる座布団があります。コードがありどっかとつながっています。ある時、その座布団に電気が流れます。目を覚ましたAさんはあわてて鳩小屋をあけます。 鳩はおなかが減っているので飛び立って、隣の船にいくものもいます。 おいしそうに餌をたべてBさんはちょっとするとなんの騒ぎだと目をさまし目の前のボタンを一回押します。そしてしばらくしてハトの騒ぎが落ち着くとまた眠ります。
 このままだと鳩はA船尾にはかえってこないですね。Aさんは、ちょとB船首よりも離れたところに餌を置いていてB船首にいった鳩が餌を食い尽くしたら、もどってくるようにしています。 そして鳩を回収してせっせと鳩小屋に詰め込むのです。
 この鳩には様々な種類がいます。
セロトニン鳩、ドーパミン鳩、ノルアドレナリン鳩、などモノアミン類が精神科では有名ですね。

 信号が通るも通らないも管理人Bの気分(閾値)しだい

 A高層ビルは”終末ボタン” B高層ビルは樹状突起、管理人さんはイオンチャンネル。管理人が眠るのは静止電位のため。椅子の電気と電話は脱分極、餌は、しばらくおきているのは不応期、を表しています。ここで興味深いのは、ハトが少なかったらB管理人は起きないのです。これを閾値と呼びます。

 このような一件曖昧な仕組みをつかって我々の脳の電算装置は作られています。

 起きるのを邪魔するカラス~抑制系

 さてちょっと離れたところに同じように管理人がいます。C船の船尾にはC管理人がいます。ここで飼っているのは賢いカラスです。C管理人はA管理人と同じように電気が流れる座布団の上に座っています。 C管理人が電気にびっくりして起きて、カラスの小屋をあけます。カラスは飛び立ち、B船首の餌を食べます。B船首の管理人は簡単に目をさましません。しかし、さすがに気が付きます。。B船首の管理人は目を覚まし餌がなくなっていることを知ります。鳩がきたときだけボタンを押すのでボタンは押しません。B管理人は餌台にフードをかぶせカラスをおっぱらいます。 A船の管理人は賢く、帰ってきた鳩を迎える餌はカラスは入れず鳩は入れるぐらいの入り口鹿ないです。カラスは諦めてCビルにもどります。C船の管理人は鳩には食べられずカラスは食べられる餌を用意しておきます。そしてカラスは元通りC船の鳥小屋にいれられます。
このタイミングでA船の鳩が放たれてもB船には餌がないもしくはフードのせいでとんぼ返りです。
 このカラスで有名なものはGABA系とよばれているもので抑制系の仕組みです。睡眠薬などに関係する仕組みです。
 いかにもめんどくさいですよね。手旗信号にすればいいじゃんと思います。多くの精神科の薬はこの仕組みに関与するものです。これに関しては後述します。

 この一見複雑な仕組みを階層的、立体的に組み合わせてわれわれの脳は働いています。

雑な編集者 感情の記憶と事実の記憶の錯乱

 

 受験生や医学生だったころは、いかに効率よく記憶を固定化するか色々覚え方を試行錯誤していました。懐かしいですね。今ならそんな試行錯誤しなくてもネットでぐぐればいろいろ出てきます。いい時代です。記憶の宮殿(具象イメージと記憶を結びつけるやりかた)とかもやってみましたけど飽きましたね。でも、今引き出したら案外でてくるものですね。面白いです。ちなみに記憶の宮殿は個人的に素敵だなという思い出に使っています。
 ちなみに私は学校は賛成派です。いろいろ短所もあるけど、学校がなかったら医者になれてませんし弟と家業をわけて貧しい暮らしをしていたかもしれません。歴史でみると学校は身分制度をこわしてくれた根幹だと思っていますし、いろんなことを学ぶにはコスパ最強のツールだと思っています。人生の先輩たちの税金でスポーツや学問、人間、組織について学ばせていただいて本当に感謝しかないです。目的と手段、義務とチャンスをごっちゃにしがちなのでいろいろわかりずらいですね。色々事情はあると思いますが、不登校の子も虎視眈々と利用をねらったほうが平均的長期的にはメリットがあると思います。

コンピューターと人間の違い

 さて表題の話です。
まずは、コンピューターが記憶をするさまをざくっと見ましょう
インプット→メモリーなどの短期記憶装置→ハードディスクなどの長期記憶装置
シンプルでエレガントですね。脳を電脳化したくなります。

 人間はどうでしょう。 記事書くためにいろいろ調べたら、色々新しい知見があるみたいでちょっと興奮しました。ホモサピやっぱりすごいですね。まあ、細かい話はもっとほかの記事で読まれたほうがいいので簡単なわかりやすい食べやすいことだけ書きますね。
インプット→海馬体を中心としたワーキングメモリー→大脳皮質へ固定化。

 脳の変化を5つにわけます。

  1. 生後すぐから始まるアポトーシス(細胞自死による刈込)
  2. シナプスの接続の変化
  3. シナプスを支える周辺細胞や物資の変化 (血流の変化)
  4. ホルモンバランスの変化
  5. 遺伝子の後期修飾 エピジェネティックス的な変化


と5つに分けます。
 いや、これでも難しいですね。

もっと簡単にしましょう。
脳には限界があり、すべての事象を記憶することはできません。
たとえていうなら、回路としての脳は、都市機能を記憶媒体として使うときにどうふるまうかに酷似しています。 ビジュアル的にも似ているんですね。
https://wired.jp/2017/07/29/brain-metaphor/
攻殻機動隊のオープニング
もっとわかりやすいたとえをするとフェイスブックで噂話がどう固定化するかの振る舞いがにているのではないかと思います。
 まずは短時間の話題提供があり、それが情緒的な関心を引き、議論の対象になると様々な検証がなされ、それぞれの変化を及ぼす。でも全体的な影響や、サイトの使用にも影響がでる。一度噂話がこていかすればそれを消すのはなかなか難しいか、他の議論の中に次第にうもれていく場合もある。また、その噂話は、個々人がつながっている部分に多大な影響をうけている。
これでも難しいですかね。
 論点は”人間の記憶そのものは、なんとエレガントでないか、あいまい信頼がそもそもできない。”ということです。都市計画のない都市、フェイスブックのなかでの”事実”ぐらいなものだということです。
 ミクロだけでんなくマクロ的にも考えてみましょう。情報の取捨選択はまずは環境に影響を受けます。そもそもこの環境自体もその個人が与えた影響下にある情報のソースじたいを変えています。記憶は感情やその時の関心によってざくっとふるいにかけられ、そして感情的な記憶を中心とし長期記憶に蓄えられる。


 彼女や家族にみた映画のことを聞いた経験はありますか?すると全く違う感想がかえってきた経験はないですかね。この曖昧な記憶にうつ病の人やPTSDの人は苦しめられているのです。

曖昧な過去に委ねて治療をしていいのか?

 記憶がいかに曖昧か述べてくると今度は治療に疑問をもちます。精神病の原因を探ると言う行為はその多くが過去の記憶に基づいています。親、辛い出来事、過去の選択、それらを探って解決する後ろ向きの治療は数多くありますし、べつに悪いわけではありません。人は認知的に理解出来ないものを体験するとそれに理由を探すクセがあります。その原因を探りたいという欲求は当然のものです。

 しかしながら、寂れた都市を復興するために、都市計画を過去の歴史だけを参考にすればいいのでしょうか?

 フェイスブックのうわさ話を否定し防止するために過去のデータを遡れるだけでいいのでしょうか?

 体の病気の多くは恒常性があり再現性があるため原因をさぐれば大体治療法が浮かびます。

 ところがこと心に関しては、情報が常に曖昧であるということがありそれだけでは解決しないことの方が多いです。近代現代にかけて精神科の治療法で前向きなものが多いのも、アルコール依存症が一日断酒が本質であるのもこの記憶の曖昧さのせいです。

 曖昧な記憶に確信をもってしまうと、結局色々なループから逃れなくなります。そして逆にいうとこの過去の記憶の確信によって苦しめられている人も多いです。

 過ぎ去った川の水はもう飲めません。過去は友人、未来は師匠とライバル、現在は主人公なのです。これは後の節で述べます。

 

感情に左右される未来予測、未来予測に左右される感情

 人は未来をある程度予測することができます。誰でも数秒程度は可能です。というのもインプットアウトプットまでにはタイムラグがあるからです。0.1秒ほどです。つまりある程度先をよみながら、生きています。
 多くの人が未来を見据えているのは、本質的な未来予測でなくパターン認識に基づいています。パターン認識とは人間の知性の一つで、膨大なデータから一定の特徴や規則性導き出す知性のことです。コンピューターは未来を予測できるのでしょうか?
 

 例えば天気予報。

 天気予報の精度は驚くばかりです。10分後の天気は完璧ですよね。ですが、時間軸を延ばすとみるみる精度は落ちてきますね。

 例えば株価。

 これはシュレンデディンガーの猫も真っ青で裸足で逃げ出します。当たらないです。

 さて人間の未来予測能力はどうでしょうか。皆さんご存知のとおりポンコツなんです。そもそも未来予測が正確なら詐欺なんて横行しないですよね。
 もともと人間には認知バイアス(見方の隔たり)が無数にあります。(これについてはどっかでページを割きます)
 でも、これにたよらなければ我々は不安で仕方なくなる。この矛盾こそが我々を不安にさせます。未来予測しても無駄なのは論じるまでもないのですが、参考までにいうと3つの点がこれを難しくしていると思います。
 

  1. 複雑系の予測は現状難しいこと
  2. 人間に認知バイアスが甚だしくあること。特に感情のバイアス。
  3. 本当に正確な未来予測があったとしても、偽りの未来予測と区別がつかないこと 

1)複雑系の予測は現状難しいこと。

2)人間に認知バイアスが甚だしくあること。

3)本当に正確な未来予測があったとしても、偽りの未来予測と区別がつかないこと 

 種を植えたら、大体なんの植物が生えるかは種をしっていればわかります。でもどこまで大きくなるかは予測できないし、本当に生えるかもわからないし、枯れるかもしれないですよね。「これは多分トマトの種です」といわれても嘘がわからない。ところが、トマト嫌いだったら信じたくなくなる。でも、わからないから植えるしかない
 ここでの論点は”未来予測はそんなにあてにならないのに人はみな過剰に右往左往してしまう”という点です。

 不安障害とよばれる一群の精神疾患があります。

 不安は漠然とした不安と具体的な不安があり、その多くが未来に関するものです。うつ病でも病的不安が出現します。(強迫性障害の確認行為は過去によるものですが、鍵の確認は泥棒が心配なのですし、手洗い恐怖は感染の可能性なのでベースは未来への不安です)

 話を聞いていると不安だから未来のことを考えるのか、未来予測に基づいて不安になっているのか、それとも両方なのかわからなくなってきます。 

 なぜ、現在の出来事や過去の出来事に関して病的な不安が少ないのか。現在の出来事は解決が容易ですし、過去の出来事は確認できるからです。

 まあ、ハトをとばして連絡している我々なので仕方ないなとは思います。

  • この記事を書いた人

モジャクマシャギー

 アラフォーの精神科勤務医です。自分の外来や診療が円滑になり、利用者さんの治療がスムーズになることを目標にブログを書き始めました。   ですが、いろんな方にもみてもらってやくにたてたら嬉しいです。  病棟業務を中心に児童から認知症、最近はインターネットゲーム依存まで幅広くみています

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