利用者さんのなかには甘えるのが苦手な人がいます。ここでいう甘えるということは、人に上手に物事を頼めるということです。病んだ方、弱ったかたにとっては、助けてくれる人がいるというのは人生を変えるほどの大きな部分です。俯瞰してみるとやっぱりこの甘えるというのが上手い人は予後がいいです。
この甘えるという行為、私自身も苦手で、人生のテーマの一つといっても過言でないくらい大事な話題です。実際に甘えるのが上手な人は、仕事も恋愛もうまくいくように見えますし、甘えるで検索すると恋愛相談がでてきます。
ここでいう甘えるというものの定義ですが、家族、友人、恋人、同地域、民族など社会的な文脈がある対人関係において共通理解や感情に基づいて、物事を頼んだり、距離感を調整する。ということになります。
さて、難しいですよね。もっと簡単な言い方をします。
私はこれを三つにわけています。人を観察していると人の甘え方はみっつにわけられる気がします。
- 猫の甘え方。自分自身が甘えたい時だけ近寄る。構ってやりたいときだけ甘えさせる。
- 犬の甘え方。ずっと一緒にいる。基本、なんでもやってあげる。
- 猿の甘え方。具体的な物事をお願いし、お願いされる。
甘えについては土居健郎著『「甘え」の構造』が有名ですけど、ここでは甘え方についていつも外来でいっていることを深く掘り下げていきます。
二人組の情報の流れを考えるとこのようになります。
これの図に関しては別項で色々考えていきたいと思いますが、個人だけのシンプルなものでなくて、共通の環境があるのがポイントです。ここを理解していなければ二人組の情報や情動の流れを理解するのは難しいです。
甘えられないとはどういうことか
甘えられないということが理解出来ない人はおそらくいると思います。人は助け合う社会的な生き物なので、甘えられるというのは前提条件に近いものがあります。DNAや本能に刻まれている部分だからです。
ところが、これが上手にできない人もいます。外来でこれができない人、下手だなーという人は結構います。これは逆算すれば当然で、甘える=人に助けを求められるということなので、人に助けを求められるなら発症の早期の段階で乗り越えられる可能性もありますし、外来や入院にならなくてすむのですから。
甘えるという行為は分析すると、三つのフェイズにわかれます。
1)甘えられる相手をみつける事=相手にみつかるということ
2)必要な分のサインを出すこと。
3)甘えられた分のリターンを返すこと(感謝を示すこと)
ちなみに私も苦手です。
1)はほぼ社会的経験によって裏打ちされます。また運もあります。優しい人と優しいふりをする人の見極めは難しいです。最初に出会うのは、当然、親兄弟です。シビアな環境だとこれができないこともあります。幼少時代に練習ができれば甘えられるときと出来ない時の見極めができるようになります。ADHDやASDなどの発達障害はこれを困難にさせます。前者は内的体験に圧倒され、後者は人の感情を理解するのにタイムラグがあり疲労をためていきます。被虐待だともっとシビアで弱みをみせると辛い結末しか想像できません。外にでていけるかがポイントになります。
優しい人にみつかるためにはヒッチハイクと同じで場所、時間、タイミングが大事です。TPOですね。
親が同様に発達の課題をかかえて甘えられずかつある程度の成功を収めた場合、甘え=弱さという考えになることがあり、これは連鎖します。特に戦前戦後は世間も厳しく旧態依然の仕事に就いている場合も、基本的に厳しくなります。結果だけがすべて、上を目指さなければ意味がない。倒れるときは前のめりだ、頑張ればなんとかなる。一番と二番は違う。
はっきりいいますと、これは強さでも何でもないです。弱さの裏返しです。そうしなければやっていけないのです。ついてこれないやつは人間やめればいいぐらいの世界であるなら仕方ない。でも、今は余裕がありゆとりがある価値観の中で生きています。頑張れない人も生きて行って良いんじゃないって雰囲気なのです。
2)運に恵まれて、人に恵まれた場合でも人にサインを出すのが苦手な場合があります。猫だったらすり寄ってくる。犬だったら鼻を鳴らす。猿だったら背中をむける。相手の背中を触る。
現代で考えると、「ちょっと話聞いてよ」という。「お茶しない」と誘う。「愚痴きいてくれない」と具体的にお願いするなどです。落ち込んでいる表情で過ごすのも、背中をまるめて歩くのも良いでしょう。ため息をつくなどもなかなかわかりやすいサインです。
これが出せないという人も多いです。でも、これは練習でなんとかできるはずです。友達にできなかったら医療スタッフ、福祉関係者にいう必要があります。もしくは、人を助けましょう。甘え上手な人をきちんと観察しましょう。話し上手は聞き上手というように、甘え上手は甘えられ上手だったりします。
そもそも、人を助けるという行為は”娯楽”にちかい快感を伴います。甘えられない人でも、人を助けることはできるという場合も多いはずです。ここのハードルが高いと言う人は多いと思います。わかっちゃいるけどできない。自分で乗り切った方がはやいという場合もあります。
しかし、病気でも二人組でも、観察していると甘えるのが上手い人は長続きしています。甘えすぎは良くないですが、適切に人を助け、たすけられるというのは人間関係の基本のようにみえます。少しだけ勇気をもってサインをだしてみないでしょうか?
3)猫の背中をなでて喉をならされたりするのは気持ちがいいものですよね。犬が気持ちよさそうに顔を弛緩させるのはみてて嬉しいものです。猿がのみ取りを交代するのもみていて楽しそうだなと思います。人に親切にされたら基本的には満面の笑みとありがとうの言葉が必要です。多くの人は自然にそれを覚えます。出来ない人は練習するしかないです。表情の構成筋はどれも随意筋なので練習で表情は作れるし、ありがとうもただの言葉です。気持ちが大事ですが、気持ちを入れる箱も大事です。出来ないと思うなら今すぐに鏡をみて笑顔の筋トレをしましょう。ありがとうと言葉に出しましょう。
もちろん、それだけでなく、親切をやられたらやり返しましょう。終わりのない親切のキャッチボールは楽しい物です。